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戦争が「自殺ブーム」を収束させた?マスコミの自殺報道によって944人が命を絶った三原山事件

炎上とスキャンダルの歴史6

 

■報道が加熱させた「自殺ブーム」

 

 この事件後、不審者が大島火山の山頂火口部で大量に目撃されるようになり、火山火口を監視している「御神火番人」だけでは手がまわらず、地元の警察も自殺防止の名目で動員されるようになりました。しかし、松本貴代子が亡くなってから早くも10日後、いったん保護された男性が、身元引受人としてやってきた兄の目の前で、火口に投身する事件を起こしたそうです。

 

 この年だけで、三原山火口に身投げした人は男性804人、女性140人。未遂者を入れれば、その何倍、何十倍もの人が甘い死を夢見て、東京からフェリーで大島を目指していたのです。世間はこの物騒なブームを「三原(山)病」と命名し、何度も記事化しました。それがより多くの自殺者を生んでしまったことは否定しようがありません。

 

 しかし、松本貴代子の投身事件から約3年後、昭和11(1936)年2月26日には、あの「二・二六事件」が起きており、日本社会は戦争に向かって傾きはじめ、軍部が増長し、きなくさい空気に包まれるようになりました。

 

 不思議なことに、それと時期を同じくして、「三原(山)病」は収束していったといいます。戦争間近の時代や社会に、美しき死を夢見る病的なロマンティストの居場所などはなくなるものなのでしょうか。

 

<厚生労働省HPに掲載されている相談窓口(一部)>

■こころのオンライン避難所 https://jscp.or.jp/lp/selfcare/
■よりそいホットライン

0120-279-338 つなぐ ささえる(フリーダイヤル・無料)
※岩手県・宮城県・福島県からは0120-279-226 つなぐ つつむ(フリーダイヤル・無料)

■いのちSOS

0120-061-338 おもい ささえる(フリーダイヤル・無料)日曜日、月曜日、火曜日、金曜日 00:00~24:00、水曜日、木曜日、土曜日 6:00~24:00
※土曜日6:00~火曜日24:00まで、木曜日6:00~金曜日24:00までは連続対応

■いのちの電話

0120-783-556(フリーダイヤル・無料)毎日16時から21時まで

 

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、『こじらせ文学史』(ABCアーク)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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